厚生労働省 ユースエール認定制度のご紹介

インタビュー

若者の働く価値観とマッチする
ユースエール認定制度を
積極的にアピールしてほしい

株式会社リクルート
就職みらい研究所栗田貴祥 所長

栗田貴祥所長

アフターコロナで企業の採用意欲が復活し、内定の早期化が進んだ2024年3月卒大学生の就活事情。中小企業にとっては依然、新卒者の獲得が厳しい状況にあるなか、「働きやすい環境を整えている中小企業を認定したユースエールは、学生を引き付ける旗印になるはず」と、株式会社リクルート就職みらい研究所の栗田貴祥所長は語る。同所の就職・採用に関する調査分析から見えてくる学生たちの働く価値観の変化や、その傾向を踏まえた中小企業の対応策などについて栗田氏の考えを伺った。

卒業前年の2月で2割の内定率、就活の早期化が顕著に

2024年3月卒大学生の就活事情について教えてください。

栗田氏新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着きをみせて、企業はここからどう成長戦略を描いていくかを考えるなかで、構造的な人手不足を背景に、人材に対するニーズが非常に高くなり、学生には追い風が吹いています。そうした状況を顕著に示すのが内定の早期化です。

就職みらい研究所による大学生と大学院生を対象にしたモニター調査で、現行の就職・採用活動日程が始まった2017年卒と24年卒を比べると、卒業前年の2月1日時点の17年卒内定率は2.3%だったのに対し、24年卒は19.9%と約9倍の内定が出ています。政府が要請する採用選考活動開始にあたる卒業・修了年度の6月1日時点で、24年卒の内定率は79.6%と、17年卒以降で最高値でした。少子化による中長期の人材不足も見据えて採用意欲が高まり、早期に優秀な学生を確保しようと各企業が「前のめり」になっている状況がわかります。その結果、複数社から内定を得た学生が多く、企業の人事や大学の先生に聞くと、内定式に参加しても「この会社でいいのか」と入社を決めかねている学生もいるようで、学生優位の状況と言えます。

売り手市場のなか学生たちが企業選びで重視していることは何ですか。

栗田氏企業の採用選考に応募する基準について、23年卒の大学生に尋ねた調査がありますが、「自らの成長が期待できる」ことが1位で58.9%の学生が挙げています。この理由はここ数年ずっとトップです。これは組織と個人の関係性の変化を象徴しています。高度経済成長期は会社に尽くせば、終身雇用や年功賃金、キャリアアップが保障されたので、働き方も会社が求めることに応える感覚のほうが強かった。今は低成長、ゼロ成長時代です。変化が激しく不確実性の高い状況下では、会社に頼るのではなく、何があっても生きていける個人の力を身に着けられるところで働きたいという意識が高くなっている表れです。

卒業前年の2月で2割の内定率、就活の早期化が顕著に

内定辞退策として入社前に職務や勤務地を確約

企業選択で新型コロナ感染禍の影響を感じる面はありますか。

栗田氏採用選考に応募する基準のなかで、38.1%の学生が「職種が自分の希望と一致している」を、35.3%が「勤務地が自分の希望と一致している」を挙げ、前年の22年卒の調査よりも前者は6.1ポイント、後者は7ポイント上昇して、他の設問と比べて際立って伸びています。コロナ禍でリモートワークや在宅勤務が広がり、自分に合う働き方が認められるようになったこと。家族や友人など身近な人との時間が増え、社会に出てもそのつながりを大事にしたいこと。そうした環境や意識の変化が、職種や勤務地へのこだわりに表れているように思います。

そうした学生の志向に対応した企業側の動きはありますか。

栗田氏最初の勤務地や職務を入社前に確約する通称「ジョブ型採用」を導入する企業が増えています。募集段階で初任の勤務地や職務を明らかにして希望する学生を選考する形です。先にお話しした調査結果のように、職種や勤務地を希望する学生は増えています。そうした学生の期待に応えるべく、内定辞退を防ぐ手立てとして、ジョブ型採用を募集時の選択肢に加える企業が増えているわけです。

採用競争が激しさを増すなかで中小企業の現状をどう見ていますか。

栗田氏厳しい採用状況にあります。リクルートワークス研究所が調べた24年卒大学生と大学院生の求人倍率(求職者1人当たり何件の求人があるか)は全体で1.71倍でした。これを企業規模別にみると、従業員5000人以上は0.41倍、1000~4999人と300~999人はともに1.14倍で、300人未満の中小企業は6.19倍でした。中小企業は求職者1人に求人6件が競い合う状況にあります。

学生が支持する『働きたい組織の特徴』とは何か

若者が働きやすい環境を整えた中小企業を国が認定する「ユースエール認定制度」について、栗田所長はどのような印象をお持ちですか。

栗田氏正社員平均で残業時間が月20時間以下、年間の有給休暇取得率が70%以上などといった認定基準を満たして、働きやすい環境をつくるために努力をし、人を大事にする会社であるという「旗印」として、学生にも理解しやすい認定制度だと思います。そして、その認定基準は学生が求める「働く価値観」にもマッチしています。

当社が実施した24年卒の大学生と大学院生が支持する『働きたい組織の特徴』に関する調査では、9割弱の学生が「仕事と私生活のバランスを自分でコントロールできる」ワークスタイルを選んでいました。また、「特定の地域で働く」は約7割、「特定領域の仕事を長期間、継続的に担当する」働き方を約6割が望んでいます。ワーク・ライフ・バランスが図れて転勤がなく、特定の職務を極めていける。中小企業の特徴と合致する部分があるのではないでしょうか。

ユースエール認定を得た企業は学生にどうアピールすればよいでしょうか。

栗田氏エリアや対象を絞り、しっかりとリーチできる範囲で、ユースエールを含む自社の魅力を届け切るように行動してはどうでしょうか。例えば、地域にある大学や専門学校のキャリアセンターを訪ねて職員と対話し、自社を応援してくれる仲間をつくる。職員の方が学生に、「ユースエール認定を取った企業から選んでみる手もあるよ」と言ってもらえるようにすることです。SNS世代の学生たちは多くの情報を手に入れることが得意な分、情報の海におぼれてしまうことがあります。そうしたときに「ユースエール」という一つの検索軸が提示できれば学生に興味をもってもらえる可能性は高まると思います。

ユースエールは働きやすさを示すわかりやすい「物差し」です。大学に講演で招かれた際、職員の方から良い中小企業の探し方のアドバイスを求められることがあります。「ユースエールとか、えるぼしとか、くるみんとか、働きやすさの指標となる認定制度はいくつもありますよ」と伝えると、「そうなんですか」といった反応をされる方もいます。当社の就職情報サイトでも、掲載企業の企業情報ページに、ユースエール認定企業はその旨を記載されていたりしますが、こういう物差しがあるんだと、行政を含めてもっと周知したほうがいいですね。

ユースエールを取得している企業は、認定基準を満たしていることを毎年労働局に申請して更新する、誠実な企業でもあります。

栗田氏ユースエールの認定は、働き方をアップデートし続けている証でもあるわけです。その取り組みは今後、企業が生き残るうえで重要なことだと思います。リクルートワークス研究所の調査では、2040年には国内の労働力人口は1100万人ぐらい足りなくなると推計しています。この人数は近畿圏の就労人口に近い数です。この先、日本は少ない労働力でいかに社会のインフラを回すかが課題になります。子育てや介護をしながらでも働けるような職場環境を築くことが大事です。そう考えると、ユースエール認定企業は若者だけでなく、あらゆる立場、世代の人にとっても魅力ある職場だということです。

学生が支持する『働きたい組織の特徴』とは何か

自分らしく生きるための仕事の見つけ方

就職活動に臨む学生に向けてアドバイスをいただけますか。

栗田氏働くために生きているのではなく、より良く、自分らしく生きるために働くのだという意識を持って就職活動に臨んでほしいと思います。いかに内定を取るかでいっぱいになる気持ちもわかりますが、内定がゴールではありません。その先の長い人生を豊かなものにしていくために、どういう仕事や働き方があるのかを考えてほしいですね。

その「自分らしく生きるための仕事」を探し出す方法はありますか。

栗田氏自己分析にあたる「自己探索」と、企業研究・仕事研究にあたる「環境探索」、この2つを濃密にやってみることです。どういう仕事に興味があり、面白いと感じるのかをインターンシップやOB・OG訪問、個別説明会などに参加して、いろいろな仕事や職場を探索するなかで見極めてください。それでもやりたいことがよくわからないという学生もいます。そういう人は、「将来のありたい姿」をイメージしてみると良いと思います。家族第一の人生を歩みたい、お金を稼ぎたい、趣味を生きがいにしたいなどの「ありたい姿」に、どういう働き方や仕事がフィットしそうかを考えてみることです。

そしてもう一つは、自分が得意なことは何か、人に頼りにされることは何かを、原体験の中から棚卸しして整理することです。得意なこととは、ほかの人よりも苦もなく普通にできること。できて当たり前だと思ってしまって、それが自分の強みだとわからない人もいます。そこに気付くには、家族や友人など自分をよく知る人に聞いてみるのが一番です。学生は企業から価値の提供を受ける消費者ですが、社会人は価値を提供する側に回ります。自分が「価値の作り手」として何が提供できるのかを考えるときに、得意なこと、人から感謝されたことがヒントになるかもしれません。

就活生に保護者から伝えてほしいこと、言ってはいけないこと

身近な存在である保護者は、就活生をどうサポートしたらよいでしょうか。

栗田氏コロナ禍で学生がつらかったことは、先輩や友人など学生間の縦横のつながりが希薄だったことです。その一方で、リモートワークで働く家族を身近に感じる時間にもなりました。ある学生は、笑いながらリモート会議をする父親の声を聞いたとき、仕事はつらいものだと思っていたので新鮮だったと話していました。コロナは、親などを通じて仕事や働く姿を垣間見る時間にもなったわけです。

私たちの調査では、卒業後の進路選択で「親の影響」を一番に挙げた学生が最も多く、また、7割近い学生が、就活で親と関わることは嫌ではなかったと答えています。親は余計な口出しをしないようにと考えがちですが、社会人の先輩として相談に乗ってほしいと思います。その際に気を付けることは、昔の価値観を判断基準にした否定や誰かとの比較、意見を押し付けないことです。学生は口をそろえてそれが嫌だったと答えています。逆に親との関わりで良かったこととしては、「個性を尊重し、自分の活動を肯定してくれた」「普段と同じ態度で見守り、聞き役に徹してくれた」「励ましや癒し、心の支えになってくれた」が回答の上位に挙がりました。

現在の就職活動はとてもハードです。学業をこなしながら課外活動をし、何社ものインターンシップや会社説明会に参加しています。たくさん応募すれば、それだけ落ちる数も多くなる。心が折れそうなときにそばにいる保護者からの、「大丈夫。あなたの良さはちゃんとある。この会社とは相性が合わなかっただけ」という一言で救われるのです。幼少期のエピソードなどから本人の良さや個性を伝えてほしいと思います。そうしたコミュニケーションが当人の自己分析を深める手助けになります。

最後に就活中の学生にメッセージをお願いします。

栗田氏学生に追い風が吹いている状況から、「就活さえすれば内定がもらえる」といった楽観論も学生の間で聞こえてくるようになりました。就職活動は世の中を知り、自分自身を知る貴重な機会です。社会人人生の端緒をつくるこの時間を有益に使い、納得感のある就活をしてほしいと思います。

就活生に保護者から伝えてほしいこと、言ってはいけないこと

略歴

栗田貴祥(くりた・たかよし)

1992年、株式会社リクルート入社。以来30年にわたり人材採用に関わるHR事業領域に従事する。新卒採用・中途採用・教育研修などの提案営業に携わった後、新卒メディア・中途メディア事業の営業部門や人事・組織開発、広報などスタッフ部門の部門長などを経験。2021年4月からリクナビ編集長を務めた後、22年4月、より良い就職・採用のあり方を追究するための研究機関「就職みらい研究所」所長に就任。

ユースエール認定制度とは

若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業(常時雇用する労働者が300人以下の事業主)を厚生労働大臣が認定する制度。2015年度に制度がスタートし、2023年10月末現在、認定企業数は1,110社に上る。

認定企業になるためには、直近3事業年度の新卒者などの正社員の離職率が20%以下であること、前事業年度の正社員の月平均所定外労働時間が20時間以下で、月平均の法定時間外労働60時間以上の正社員が1人もいないこと、前事業年度の正社員の有給休暇の年間付与日数に対する取得率が平均70%以上または、年間取得日数が平均10日以上であること、直近3事業年度で男性労働者の育児休業取得者が1人以上いるか、女性労働者の育児休業取得率が75%以上など、各種項目の認定基準をクリアする必要がある。企業は各都道府県労働局へ資料を提出して申請し、基準を満たしていると判断されると認定通知書が交付される。

認定企業は、優良企業であることをアピールできるユースエール認定マークが使えるほか、認定企業限定の就職面接会への参加やハローワークによる企業PR支援が受けられる。加えて、日本政策金融公庫の低利融資、公共調達での加点評価などのメリットがある。

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